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謎​解説&ストーリー公開

●作者
<シナリオ>
・前日譚:文夏
・本編Episode1~5&Epilogue:青葉様
<謎>
・問題1~4:エコ太様
・問題5:企画チーム

 
注意マークのアイコン.png

​前日譚~名探偵は大忙し~

前日譚

「はー、疲れた疲れた!」

 

逃げ出した飼い猫を探して欲しいというご近所さんの依頼を終えたばかりの魏無羨は、探偵社に戻るなりお気に入りのソファに寝転がった。藍忘機と共にこの『雲深探偵社』を始めてから早一年。相次ぐ依頼に対応するため、いつでも探偵社にペット用のおやつを常備しているくらいには動物たちの捜索にも慣れた。が、慣れていても、かがみこんだ姿勢のまま猫がいそうな場所を探して練り歩くのはてきめんに体力を消耗する。

しかし、のんびりくつろごうとする魏無羨に向かい、藍忘機は無常にもどこかもの言いたげな視線を送った。

「魏嬰」

「なんだよ。ひと仕事終えたんだ。ちょっとは休ませてくれよ……って、もしかして、また依頼がきたのか?」

魏無羨は天子笑に伸ばしかけた手を引っ込めると、ぎょっとして勢いよく起き上がった。すると、心なしか困ったような表情の藍忘機が「うん」と言い、魏無羨はがっくりと肩を落とす。

「商売繁盛はおおいに結構だが、あまりにも忙しすぎる! これじゃあ、お前といちゃつく暇もない」

そう嘆く魏無羨に、藍忘機も厳しい顔でこくんと頷いた。

 

   ***

 

そもそも、不動産で一生分の収入を得ている藍忘機は労働とは無縁の雲上人である。好きなように時間を使える趣味人の彼を巻き込んで、暇つぶしがてら探偵業をやろうと言い始めたのは魏無羨のほうだった。

 

二人とも頭の回転には自信があり、荒事の対応も得意である。せっかくの能力をただ遊ばせておくのは勿体なく、かといって勤勉に働いてしまえば二人きりの時間は減ってしまう。そこで思いついたのが探偵業だった。

 

小説や映画の中に出て来るたいていの探偵たちは、あくせく働いている様子もなく数日事件を捜査して去っていく。いや、なんなら安楽椅子探偵として、なかなか部屋の外に出ない探偵も珍しくないのだから、藍忘機とのんびり過ごす時間も取れるだろうし、魏無羨はちょっとした事件やもめ事を前にすると燃えるタチなのだからきっと向いているに違いない。

これは妙案だ、と魏無羨は思ったのである。……その時は。

 

最初のひと月は魏無羨の見込み通りだった。看板は出ていても、怪しげな探偵社に依頼を持ち掛けるような奇特な人は少ない。それでも週に一回程度は依頼人がやって来たし、魏無羨は非常に満足していた。

雲行きが怪しくなったのはその後だ。

 

うっかり初月の帳簿を江澄に見せてしまったのが最初の誤算である。

帳簿を見るなり江澄は目を剥いて、大赤字を出しながら平然としているとは何事か、と小言を言い、その翌日から江澄経由の顧客がひっきりなしに訪れるようになった。

しばらくして、探偵社が大赤字だとの話が藍曦臣の耳にも入ったらしく、今度は彼のコネクションで財閥の会長やら世界的に著名なアーティストやら、大口顧客の紹介が舞い込み始めた。これが二つ目の誤算である。

  

さらに言えば、藍忘機と魏無羨は探偵として非常に優秀だった。

とある資産家宅で起こった怪奇現象の謎を解き明かしたり、故人の暗号を解読して有名な絵画の隠し場所を探し当てたりしているうちに、たいていの事件を一時間以内でスピード解決する名探偵としてまたたく間に名を馳せていった。

こうして様々な理由で訪れる依頼人の相手をしているうちに、雲深探偵社への評判はうなぎのぼり、依頼は殺到、退屈しのぎに依頼をこなそうなどという当初の目論見はガラガラと崩れてしまった。

   ***

二人を頼ってくる依頼人を見捨てるわけにもいかず、がらにもなく勤勉に働いてきたが、もう限界だ。藍忘機とすれ違い続けた日数を指折り数えて魏無羨は小さくため息をつく。

どうにかしようと腕を組んで考え込んだ魏無羨は、はた、と思いついてポンと手を叩いた。

「藍湛、探偵を増やそう! 俺たち二人で切り盛りしてるから忙しいわけで、仕事を手伝ってくれる仲間がいたら楽になる!」

「しかし、増やすと言ってもどうやって」

「そうだな……。まずは、求人広告を出して探偵候補生を募ろう。面白そうな応募者がいたら、候補生としてここで働いてもらいながら探偵としての能力を磨いてもらう。それでどうだ?」

魏無羨の提案に、藍忘機も悪くないと言った様子で頷いた。

 

「善は急げだ。さっそく求人を出すぞ!」

――三日後

「お、さっそく応募が来た。どれどれ、未経験だが、なかなかやる気がありそうだぞ。探偵候補生として迎え入れる前に、簡単な腕試しをするか。……あ、お前は無口な上に無表情で怖がられるだろうから、これは俺の役目だな」

「魏嬰」

憮然とした顔の藍忘機を見て、魏無羨はけらけらと笑う。

藍忘機が愛想よく振る舞ったらそれはそれで気に入らないなんて胸の内は明かさずに、魏無羨はさっそく腕試しの準備を始めることにしたのだった。

© Copyright

​Episode1 
ようこそ雲深探偵社へ!

Episode1
© Copyright

――ここが、雲深探偵社。
 古風な意匠の扉を前に、ごくりと唾を飲み込んだ。
 この探偵社に探偵候補生として勤めることになり、今日はその初出勤の日。緊張しながら扉の取っ手に手をかけると、扉は重い音を立てながらゆっくりと開いた。

 探偵社の中は、案外こじんまりとしていた。入り口から進んだところには来客用の応接セットがあった。そして、そのソファの奥には、仕事用であろう大きな机が一つ。

 よく見れば、ソファには寝転びながら書類を見ている青年が一人。格好を見れば、仕立てのいい服装をしているのだが少し着崩して着ている。そして、彼の短い黒髪は所々はねていた。彼の隣のテーブルには、土瓶が置かれているが……まさか、酒だろうか。
 青年を見つめていると、こちらの存在に気づいたのか、書類を置き、起き上がった。


「ん?もしかして、探偵社に依頼かな?」


 その言葉にふるふると首を横に振ると、青年は最初は不思議そうな顔をしたが、すぐに何かを思い出したようだ。

 

「そうか、探偵候補生だな。ようこそ、雲深探偵社へ!」

 

 黒髪の青年はにこにこと両手を広げて歓迎してくれた。
 青年は広げた両手でこちらの肩をぽんぽんと叩き、「いやあ、最近忙しくてさ!来てくれて助かるよ!」と親しげに接してくれた。

 

 そんな時、突如後ろから声が聞こえた。

 

「魏嬰、距離が近い」

 

 振り向けば、そこには眼鏡をかけた美丈夫がいた。服装もタイを締めてかちっとした格好の男性だった。


「藍湛、探偵候補生がきてくれたぞ。候補生君、こっちがうちの探偵社の探偵だ」
「よくきてくれた。先日送った書類は持ってきてくれただろうか」

 そう言われ、持っていた採用書類を手渡すと、二人にソファの後ろにあった仕事用の机のところに手招かれた。
 眼鏡をかけた男性が机の椅子に座り、採用書類を確認する。真剣な表情で書類を見つめる姿に、少し緊張する。一方、黒髪の人懐っこそうな青年はそれを机の上に座って、ニコニコしながら見守っている。
 数分の静寂の後、探偵の男性が頷いた。


「うん。問題ない」
「よかった!」

 

 探偵の男性の言葉に青年が嬉しそうに笑い、こちらへ向き直った。

 

「改めて、俺は魏嬰。字は無羨。ここの探偵社の助手だ!よろしくな!」
「藍湛だ。字は忘機。雲深探偵社へようこそ。歓迎する」

 人懐っこく明るい助手の魏無羨に、冷静沈着で切れ者に見える社長の藍忘機。
 正反対の彼らとこれから、どんな日々が始まるのか。
 ドキドキと胸が高鳴った。

 

 改めて、ソファに座ってこれからの説明を受ける。

「いやー本当に来てくれて助かったよ。最近は嬉しい悲鳴というか、仕事が本当に多くてな……。もともとそんなに忙しく働く予定じゃなかったんだけど、気づいたらそうなっていたというか」


 頭をかきながら困った顔をする魏無羨。先程も寝ながらとはいえ、仕事の書類を整理していたのだという。


「この探偵社は今まで私達二人で回してきたのだが、さすがに手が足りなくなってきた。だから、君を候補生として迎え入れることになったわけだが……まだ本採用ではない」

 

 藍忘機の指摘にごくりと息を呑む。
 そう、あくまでまだ『候補生』としての採用なのだ。今日からの出勤は試用期間であり、まだ探偵として本採用されたわけではない。

 

「まあ、そんなに固くならなくても大丈夫だ、候補生君。ちょっとお前の力を試させてもらうだけさ」

 

 そして、人の悪そうな笑みを浮かべる魏無羨。力を試す、とは一体どんなことをさせられるのだろうか。

 

「幸い、今日は急な案件が入らない限り、大きな案件はない。候補生君の力を大いに試させてもらおうと思っている」
「うちの探偵として本格的に働くには、まずテストに合格してから、ってことだ。頑張ってくれよ、候補生君!」

 今日はなかなか試練の一日になりそうだった。

​問題1

本編Q1.png
作・エコ太様
【解説】
イベント会場の背景を確認すると、スペース名を示すひらがなが22文字、マップ上部に「出口」の文字がありました。文字数を確認する問題のため、答えは「24」となります。

​Episode2 
まぼろしの酒、天子笑

Episode2

 課題を終えてやっと事務所に戻ってきた。
 早く魏無羨と藍忘機に解答を、とはやる気持ちで事務所の扉に近づくと、誰かが扉の前にいる。
 長い黒い髪を頭の上に結んだ、若い青年のようだ。
 誰だろうと思って声をかけると、青年は驚いたように飛び上がった。


「え、あ、その……」

 

 突然声をかけられたことに驚いたのか、青年はなかなか言葉が出てこないようだった。そして、整った優しげな顔がみるみる青ざめていく。

 

「すみません、間違えましたー!!」

 

 いきなり大きな声で叫び、そのまま走り去ってしまう。
 なんだったんだろうか、としばし呆然とする。しかし、課題の答えを早く届けなければ、と気を取り直し、扉に向き直った瞬間だった。

 かさりと、足元で音がする。その音に足元を見下ろすと、一通の封筒が落ちていた。拾って宛名を確認すると、宛名は『雲深探偵社 藍忘機様』と書いてあった。差出人の名はない。先ほどの青年が落としたのだろうか?
 宛名が探偵社の藍忘機宛になっているのであれば問題ないかと思い直し、その封筒を持ったまま扉を開けた。

   ***

 探偵社に戻ると、魏無羨が出迎えてくれた。


「おお、はやいな。さすがは探偵候補生だ!」


 魏無羨に促され、探偵社の中に入れば、藍忘機も待っていてくれた。
 課題の答えを告げると、藍忘機は頷き、魏無羨はにっこりと笑ってくれた。

 

「しっかりと街を見て回ったようだな。次も期待している」
「さすがは探偵候補生だ!難なくクリアできたな」

 

 魏無羨に頭をぐりぐり撫でられ、藍忘機にも褒められると、なんだか照れ臭い。

 

「優秀な候補生には、先輩から何かご褒美をあげないとな〜。ちょっと待ってろよ」

 

 そう言って、魏無羨は部屋の奥に入っていった。その手には何か見覚えのある土瓶が。……まさか、ご褒美とは酒ではないよな?と思いつつ、先ほど拾った封筒のことを思い出す。
 藍忘機宛だったので、彼に声をかけ、その封筒を手渡した。

 

「私に?誰からだろうか」

 

 先程探偵社の前に青年がいたことを伝え、その彼が落としていったのかもしれない、と伝える。

 

「分かった。確認しておこう」

 

 藍忘機が封筒を受け取り、その封を切ろうとした時だった。

 

「あー!俺の酒がない!」

 

 魏無羨の悲鳴が探偵社に響いた。そして、事務所の奥から悲しそうな顔をして魏無羨が飛び出してきた。その手にはやはり見覚えのある土瓶が握られていたが、その中身は空のようだ。


「藍湛!俺の酒がない!せっかく候補生君に振る舞おうと思ったのに」
「魏嬰、落ち着いて。この前、もう少なくなっていると自分で言っていただろう。あと、候補生に就業中、酒を飲ませてはいけない」
「初日だから歓迎もかねて振る舞おうと思ってたんだよ。はぁ、俺の天子笑ぉ……」

 藍忘機に宥められながらも、悲しそうに涙ぐむ魏無羨。その姿があまりに悲しそうだったので、思わず提案してしまった。
 その酒を自分が買ってこようか、と。


「え、候補生君、俺の酒を買ってきてくれるのか?」

 

 魏無羨の顔色がぱっと、明るく変わる。

 しかし、それに待ったをかけたのは、藍忘機だった。

「だが、魏嬰。あれを買うのは手間がかかる」
「それなら、それを第二の課題にすればいいのさ。なぁ、藍湛」

 

 いいだろう?と魏無羨に見つめられ、藍忘機は軽くため息をついた。

 

「……彼が飲んでいた酒を知っているか?」

 

 藍忘機の問いに、首を横に振る。

 

「あれは、姑蘇の名酒『天子笑』だ」


 天子笑。その有名な酒の名前は聞いたことがある。古くから姑蘇の地で作られてきた酒で、大変美味だと評判の酒だ。だが、今ではなかなか手に入らないと聞く。

「天子笑を手に入れるには、ある売り手を探さなければならないのだが……仕方がない」
「さすが、藍湛!」


 藍忘機がスマホを取り出し、メールを打ち始める。業務的な内容をさっ、と打ったのだろう。すぐに送信すれば、ほどなくして返信が返ってきたようだった。
 それを覗き見ていた魏無羨が嬉しそうに笑う。


「よし。売り手と連絡がついたぞ」

​問題2

本編ー問題2 (2).png
作・エコ太様
【解説】

指示に従って各サークルさんのキーワードを集めると、「失われたい7で 聶懐桑の文鳥」を探せとなります。本番は記載の場所に行くと、文鳥のアバターが設置されており、アバタープロフィールから次の解答欄を見つけることが出来ました。

​Episode3 
聶懐桑の頼みごと

Episode3

 売り手の情報を追ってたどり着いた場所には一匹の鳥がいた。
 頭が黒く、灰色の羽をもったその鳥は、人の気配に慣れているようだった。こちらが近づくと可愛らしく小首を傾げた。この鳥が、聶懐桑の文鳥なのだろうか。
 そう思った時、文鳥がきゅるると鳴いて、羽ばたいた。何処かへ行こうとしているらしい。

 ここで見失うわけにはいかない。慌てて文鳥を追いかけることにした。

   ***

 文鳥を必死に追いかけるうちに息が上がってきた頃、文鳥が突然下降した。
 その場所には、一人の青年がいた。文鳥はその青年が伸ばした手に舞い降り、甘えたように擦り寄った。それを見て、彼は「ごくろうさま」と優しく声をかける。文鳥と反対の手には扇を持っており、佇まいもどこか雅な青年だった。
 青年は文鳥を追ってきたこちらの存在に気づき、声をかけてきた。


「君が噂の雲深探偵社の候補生君だね。私は聶懐桑。うちの文鳥がちゃんと道案内できたようでよかったよ」


 文鳥を乗せた手とは反対の手で持っていた扇を開く青年。やはりこの青年がキーワードにあった聶懐桑だったようだ。


「雲深探偵社の二人とは古くからの付き合いでね。いつも天子笑を手配させてもらっているんだ」


 扇で口元を覆いながら柔和な笑顔を浮かべる聶懐桑。

 しかし、その笑みがなんだかあやしい。


「さて、さっそく天子笑を渡したいところだけれど……その前に、候補生君、ちょっと私を助けてくれないかい?」


 聶懐桑の目は笑っているのに、その言い方に嫌な予感がする。そこで彼は自分のスマートフォンをずいっと出してきた。


「いやあ、仕事のメールが届いたんだけど、添付ファイルのひとつがね……パスワードがかかっていて開けないんだ」


 メールを見せてもらうと、『指示書を送る。パスワードは添付した画像を参照のこと。これくらいはお前でも解けるだろう』と書いてある。画像を見れば、どうやらクロスワードのようだった。これを解かなければ、パスワードが分からないらしい。

 

「私の仕事に関係する大事な指示書でね。開けないと困るんだが、私はこういうのは本当に苦手で……頼む!私に力を貸してくれ!」


 こちらに手を合わせて必死で頼み込んでくる聶懐桑に、結局頷くしかなかったのであった。

​問題3

EP3_mondai.png
本編ー問題1 (5).png
3.png

※上記と同じ内容のGoogleスプレッドシートとPDFを用意しました。

GoogleスプレッドシートはExcel形式でダウンロードするか「シートをコピー」する(Googleアカウントでログイン時のみ)ことで、ご自身で更新可能となります。

 

なお、Googleアカウントにログインしたままリンクを開いた場合、他の参加者にアドレス等の個人情報が見える可能性があるため、ログアウトする or 趣味用のアカウントに切り替えるようご注意ください。

​ダウンロードリンク

Google
​スプレッド
シート

作・エコ太様
【解説】

クロスワードを解くと「こたえはうさぎ」となります。これを英語に変換し、「rabbit」と入れると次のエピソードに移りました。

​Episode4
協力者からの手紙

Episode4

 答えは『うさぎ』。
 パスワードを入力すると、資料が開いた。


「うわあ、本当に開いた!助かったよ〜!これで大哥に怒られなくてすむ!」

 

 心底ホッとしたように、聶懐桑は安堵の笑みを浮かべた。どうやら役に立てたようだ。

 

「候補生君、本当にありがとう。はい、これは約束の天子笑だ!」

 

 そう言って、手渡されたのは土瓶が二つ。探偵社で魏無羨が持っていた土瓶と同じだ。

 

「重いから、とりあえず二つだけ持っていってくれ。あとは探偵社の方に届けるよ」

 

 受け取るとなかなかずっしりとした重さだった。これを何瓶も……となると相当重いので、残りを届けてくれるというのは助かった。
 そして、聶懐桑はもう一つ、名刺ほどのカードを手渡してきた。綺麗な鳥の絵と彼の連絡先が描いてあるカードだ。

 

「これはさっき言っていたおまけだよ。私は天子笑以外にもいろいろと取り扱っていてね。後々役に立つと思うから是非持っていってくれ」

 

 聶懐桑は扇を開くと口元を隠し、にこやかに笑う。

 

「それじゃあ、またね」

 

 何か含むものがある笑みを浮かべる聶懐桑に礼を告げ、探偵社への帰路についたのだった。

​   ***


 土瓶2つとはいえ、なかなか重い。割らないように気をつけながら、ゆっくり雲深探偵社に戻ることになった。ようやく帰ってきた探偵社の扉を前に、一息つく。
 そして、扉を開けた時、奥から聞き慣れない声が聞こえた。誰かいるのだろうか?来客中なら失礼なことになると思い、入口で様子を伺うことにした。
 部屋をそっと覗いてみると、ソファに腰掛けた藍忘機が誰かと話している。机上にはタブレットが置いてあり、画面越しに誰かと話しているようだった。その後ろで魏無羨はソファに手をかけ、藍忘機の肩越しに同じ画面を覗いていた。


「それで……はどう……だ?」
「こちらの準備は……だ。………最後の………を頼むぞ〜」
「まったく………も考えずに…………がって」
「こちらで……………そちらとも…………になる。……………が必要だ」
「了解……だが……つくぞ」

 

 何を話しているのかはここからでは断片的にしか聞き取れなかったが、何かの仕事の話のようだった。程なくして通話が終わったようで、藍忘機がタブレットをぱたんと閉じる。その表情は心なしか険しく、重いため息をついた。
 藍忘機の背後から表に回った魏無羨もそれに気づいたのか、一瞬目を見開き、そしてふと微笑んだ。

 

「藍湛」

 

 魏無羨の優しげな声が部屋に響く。その声に顔を上げた藍忘機の肩に魏無羨が手をかける。そのまま、彼の膝の上に乗ってしまった。

 

「そんな不機嫌な顔をしないでくれよ」

 

 藍忘機に抱っこされる形で、着地した魏無羨は片方の手で彼の肩をつかみ、もう一方の手の人差し指で藍忘機の唇をなぞる。

 

「こちらだけでも解決できた問題だ。……んの手を借りずとも」

 

 唇をなぞられているのに、藍忘機は動じない。それどころか、彼の瞳は、魏無羨から視線を外すことなく彼を捉えている。

 

「それじゃ、これからのことを考えるとまずいんだって。なぁ〜、機嫌直して?」

 

 そう言って、魏無羨の唇が藍忘機の顔に近づいて……。

 

 ……これ以上は、見てはいけない気がする!

 

 そう思い、外に出ようとした時だった。
 かちゃん。
 こちらが動揺して動いたため、持っていた天子笑の酒瓶同士が触れ合い、音が響いた。
 それに気づき、魏無羨と藍忘機の視線が入口に釘付けになる。

「え、候補生君?!帰ってたのか!」
「そういえば先程、扉の開く音がしたな」

 

 慌てる魏無羨と冷静な藍忘機。
 魏無羨はすぐに藍忘機の膝から飛び下り、取り繕おうとするが時すでに遅し。対して藍忘機は特に慌てず、むしろ魏無羨が離れたことに対してまた顔が険しくなったように見える。
 これでは隠れても意味がない。腹を括って、顔を出した。

 

「おおおおつかいありがとなっ!いやー、助かった!」

 

 とりあえず、おつかいで買ってきた天子笑を魏無羨に渡せば、苦笑いされた。魏無羨はわざと大仰に褒めるが、全くごまかせていない。こちらの視線に何か感じるものがあったのだろう。魏無羨に酒瓶を渡すと、「お、奥に置いてくるな〜」とそそくさと探偵社の奥の部屋に行ってしまう。
 一方、所長の藍忘機の方は動じることもなく、こちらへ話しかけてきた。

 

「ご苦労だった」

 

 言葉はこちらを労ってはいるが、藍忘機の表情が読めない。薄ら寒い空気がこちらへ漂っているのは気のせいだろうか。冷静に見えて、これはだいぶ不機嫌なのでは……?
 今後、二人の逢瀬は邪魔しないように気をつけようと心に誓う。

 

「帰ってきて早々だが、君に探偵社で今追っている案件を一つ任せたい。……魏嬰」
「ああ、今持っていくよ」

 

 藍忘機が魏無羨を呼ぶと、奥から彼が戻ってくる。その手には、一枚のカードが握られていた。それをこちらに手渡してもらった。

 

「先程天子笑を買いに行く前に、君が拾った封筒の中に入っていたものだ。探偵社の協力者からの手紙だったのだが、情報が漏れることを危惧して暗号を送ってきたらしい」

 

 カードをよく見ると、そこには数字の暗号が書かれていた。

​問題4

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作・エコ太様
【解説】

矢印の先を読むと、123゛4がモンダイ、4567がイコール、となります。
上記のルールを当てはめると、5゛6742はゴールインです。
これを英語になおして「goalin」と入れると次のエピソードにうつりました。

​Episode5
探偵候補生、最初の事件

Episode5

 暗号の答えを聞いた魏無羨が考え込む。


「ゴールイン……目的が達成されたということだ。よし、事態が動いたな」


 どういうことか、と問えば藍忘機が説明してくれた。

 

「協力者とともに調べていた事件が動いたということだ。あちらの準備が整ったということならば、こちらも現場を押さえるための準備が必要だ」
「候補生君、もちろん君にも付き合ってもらうぞ!初日でこんなに活躍しているんだ。次も頼むぜ」


 魏無羨の言葉に驚く。まだ試用段階だというのに、探偵社の事件に関わっていいのだろうか。不安な顔をしていることに気づいたのか、魏無羨に優しく肩を掴まれた。

 

「大丈夫!まずは協力者のところへいこう。おそらく、事前に打ち合わせた場所で待っているはずだ」
「急ぐぞ二人とも」


 藍忘機の言葉に、探偵社の面々は外への扉を開けた。

 待ちあわせ場所にいたのは、先程探偵社の前で出会った青年だった。遠目から見ると、どこか緊張している様子だったが、近づいてくるこちらに気づくと、青年の顔がぱっ、と明るくなった。


「ああ、魏の若君!待ってたよ。そちらはもしかして」
「うちの探偵社の候補生君だ。なあ、候補生君。さっき封筒を落としたのは彼だろ?」

 

 魏無羨の問いに頷くと、青年は申し訳無さそうにこちらへ向き直る。

 

「候補生だとは思わなくて先程は失礼した。私は温寧。魏の若君たちに協力している者だ」


 よろしく、と言われ礼を返す。少しおどおどした様子があるが、優しそうな人だ。
 そしてあいさつの後、すぐに魏無羨にあるものを取り出した。

 

「魏の若君、これが僕の入手したメモだ。どうやら今夜例の取引があるらしい。ただ、僕ではこのメモの意味が分からなくて魏の若君たちを待っていたんだ」

 

 メモを見ると、一つはメッセージが、もう一つは暗号が書いてある。

 

「急がないと現場を押さえられなくなる。申し訳ないけど頼むよ」

​問題5

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作・企画チーム

【解説】

まずはメモ②の暗号を解いていきます。解くためのヒントは、上の★、色のついている場所に注目する、右上の太陽の3つありました。★は星期つまり、一週間のことを意味します。色のついている場所はも同様にカレンダーを意味しており、青は土曜日を赤は日曜日を示しています。
よって、赤に入るのは日曜日を表す言葉であり、この言葉は太陽とイコールになることから、「SUN」と入ることが分かります(日曜日(SUNDAY)を3文字に短縮)。同様のルールを当てはめていくと、以下のように埋まります。
EP5_hint6.png
【解説】
メモ①に戻り、あてはまる数字を埋めていきますが、何文字かメモ②に出てこない数字がありました。改めてメモ②の数字とアルファベットの番号を確認すると、①はA、④はD、⑤はEと入ることが分かりました。
つまり、数字はアルファベット順を表していたのです。このルールに当てはめてメモ①の内容を埋めると以下のようになります。

 
EP5_hint8.png

【解説】
ここまで来たらあとは入力先を探すだけです。

本番当日は、問1のところに「雲深探偵社に戻るように指示があった場合は、本サイトに戻るように」と指示がありました。

よって、入力先は本サイトの中に隠されています。実は、サイトを訪れた方が必ず目にしていた、画面上部のヘッダーの下に、「Unshin Detective Agency」の文字があることにお気づきでしょうか?

​イベント時は、Detectiveをクリックするとパスワードの入力画面が開き、そこに「welcome」と入れることで、エピローグに辿り着き見事成功となりました。
 

Epilogue

Epilogue

 雲深探偵社の看板『Unshin Detective Agency』を調べてみると、その裏にはどこかへと通じる通路があった。隣の建物と探偵社の間の隙間を利用した通路のようだったが、このような通路があることは魏無羨たちも気づいていなかったという。


「まさかの灯台下暗し……こんなところに」

 気をつけて通路を通ると、開けた場所に出た。探偵社の建物の裏側に当たる場所で、四方を周りの建物に囲まれた小さな裏庭のような場所。あまり人の手は入っていないようで、草が茫々と生えている。
 その中で、草が刈り取られた場所が一箇所。よく見れば、地面にいかにもあやしい、小さな扉が一つ。そして、その扉にはパスワード式の電子錠。
 パスワード『welcome』を打ち込むと、カチッと鍵が外される。
 扉を開ければ、そこには地下への階段があった。中は暗く、一度覗いてから近くに人の気配がないことを確認する。藍忘機が小さなペンライトで足元を照らし、全員で下に降りていくことになった。
 温寧が先行し、階段を降りていく。その先にまた扉が一つ。今度は鍵のない黒い扉だ。

 

「……候補生君、君が扉を開けてくれ。開けた瞬間、私と魏嬰が場を押さえる」
「温寧、お前は扉を開けた後の候補生君のサポートを。まかせたぞ」

 藍忘機と魏無羨がこちらに声をかけながら、手に何かを構える。暗くて見えないが、護身用の武器だろうか。まさか、銃ではないと思うが、それも暗くてわからない。
 扉のノブに手をかけ、突入に備える。


「行くぞ、3、2、1…」

 

 響く魏無羨のカウントダウン。緊張から手に汗を握る。そして。

 

「0!」

 

 最後のカウントとともに扉を引いた瞬間、後ろからいきなり中へ押し出された。
 話が違う?!
 パニックになりかけた瞬間、目と耳に入り込んできたのはーー。

 ぱんっぱぁん!

 響く軽快な火薬の音。
 降ってくるさまざまな色のテープ。


「到着おめでとう!」

 

 たくさんの人の声。訳が分からず周りを見渡すと、こちらを見つめる人の波。ただし、それは取引現場に踏み込まれた人の反応とは大きく違い、みんな何故かにこにこと笑っている。どういうことだと思い、後ろを振り返ると……。

 ぱぁん!

「おめでとう!候補生くん!合格だ!」


 こちらに向かってクラッカーを引いた魏無羨と藍忘機の姿。
 魏無羨は心底楽しそうな笑顔を浮かべて。
 藍忘機は相変わらずの無表情だが何故か微笑んでいるように見えた。

 どういうこと?
 頭の中に大量の疑問符が浮かぶ中、二人の後ろから「いきなり押してすまなかった!」と謝りながら温寧が事情を説明してくれる。
 いわく。
 これは、最初から候補生を試すための試験だったらしい。
 謎を解き明かし、この場所にたどり着けたら、本採用決定だったのだ。
 よくよく会場を見れば、天子笑を売ってくれた聶懐桑もここにいて、扇を片手にこちらを見て嬉しそうに笑っている。
 また、彼を見つけるために街を歩き回り、訪れた場所にいた人の姿もちらほら見える。つまり、街全体で雲深探偵社の候補生を試していたということだったのだ。

 

「まったくこの町の探偵は人騒がせだな。お前も苦労するぞ」


 声をかけられ振り向くと、目つきの鋭い青年が一人。見覚えのない顔だったが、どこかで聞いた声のような気がした。
 そこに魏無羨がいきなり飛んできて、青年の肩を掴む。

 

「江澄〜!会場の準備から何までありがとうな!おかげでサプライズ大成功だ!」
「魏無羨……お前はもう少し加減というものを覚えろ!どれだけこちらが苦労したと思っている!」

 

 どうやら会場その他もろもろの準備は目の前の青年、江澄が行ったらしい。会場を見れば、壁や天井にはたくさんの飾りやバルーンが飾り付けられ、華やかだ。テーブルの上は豪華な料理でいっぱいで、ドリンクもジュースからワインまで豊富に揃っている。そこには見覚えのある酒瓶も並べられており、「天子笑はもちろん私からだよ〜」と抜け目なく聶懐桑がアピールしてきた。

 

「候補生君」


 魏無羨と江澄がまだ騒いでいる中、藍忘機がこちらへやってきた。

 

「驚かせてすまなかった。だが、私たちが選んだ候補生に間違いはなかったと確信させてもらった」

 藍忘機は真摯な目でこちらを見つめてくる。だが、その目がふっ、と緩んだ気がした。

「君の実力は確かだ。これからも期待している」

 

 最大級の賛辞だった。

 

「そうだぞ。さすがは雲深探偵社の探偵候補生!なぁ、江澄。俺たちの選んだ候補生はすごいだろう?」


 そこに、魏無羨もやってくる。後ろにはまだ怒っている江澄が腕を組んでいたが、それも一瞬。すぐにため息をついて呆れ顔になった。

 

「……お前、自慢したくて、だからこんな馬鹿騒ぎを仕組んだな?」
「当然だ!」

 

 あっけらかんと言い放つ魏無羨に、さらに江澄はため息をついた。それを尻目に魏無羨はさらに言葉を続ける。


「それに、ここにいる人たちは雲深探偵社にとって、いや俺たちにとって、無くてはならない大切な人々だ。だから、候補生を紹介したかったし、みんなにも知って欲しかったんだ!なぁ、藍湛?」
「うん」
「というわけで、候補生君改め新人君!これからよろしくな!」

 

 目の前に差し出された手。
 雲深探偵社の一員として、これからここで探偵として頑張っていく。
 気持ちを新たに、その手を強く握り返したのだった。

fin?







 料理もお酒もとても美味しかった。
 たくさんの人から声をかけられ、楽しく歓談し、これからの生活に期待を寄せていたとき……それは起きた。
 突然、会場の一部が騒がしくなった。何かがあったらしいと顔を出してみると、江澄と藍忘機が何か揉めている、ようだった。


「邪魔。魏嬰に近寄るな。減る」

 

 藍忘機が江澄に向かって、とんでもないことを言っている。だが、先ほどとは違って何か様子がおかしい。表面上は同じに見えるが、話し方が拙く、目が据わっているように見える。
 どういうことか、と助けを求めようと魏無羨を探す。だが、当の魏無羨はというと、すぐ側で大笑いしていた。

 

「誰だ、藍忘機に酒を飲ませたのは……!」

 

 江澄が怒りながらも頭を抱えていた。どうやら、藍忘機は酒を飲んだようだが……もしかして、酔っているのだろうか。

 

「忘機、嬉しそうだね。私も尽力した甲斐がある」

 

 そういって、藍忘機のカップに天子笑を注いでいるのは、先程藍忘機の兄と紹介された藍曦臣だった。

「貴方か、藍曦臣!というか貴方も飲んでいるのか?!」

 江澄が言う通り、彼の頬はほのかに赤く、見るからに上機嫌だった。どうやら兄弟揃って酒を飲んでいるのは確かなようだ。
 江澄は酔っ払い二人をどうにかしようとするが、するりとかわされて、遊ばれている。そのうちに、笑う魏無羨のところに藍忘機が戻ってきた。

 

「魏嬰」

 

 藍忘機が愛おしそうに名前を呼ぶ。

 

「なんだ、藍湛?」

 

 その呼びかけに、笑いすぎて出てしまった涙を拭きながら魏無羨が応えた。

 

「探偵が増えた。私の仕事も減る」
「うん、そうだな」
「だから、もっと一緒にいられる」

 

 藍忘機の口元が弧を描く。
 その言葉と表情に、にんまりと笑みを浮かべ魏無羨は藍忘機に抱きついた。

 

「ああ、これで俺たちもいちゃいちゃできるな、藍湛!」
「うん、いちゃいちゃしよう」

 

 抱き合いながら、笑い合う二人。そして、二人してこちらを見つめて。

 

「というわけで、よろしくな新人君!」
「よろしく頼む、新人君」

 

 二人して、極上の笑顔でそんなことを言われたら頑張らないわけにはいかない。
 とりあえず、雲深探偵社で勤めるにあたって、「藍忘機に酒は厳禁」ということは忘れずにいようと誓ったのだった。
 

 以上、解説及びストーリーとなります。​本編シナリオは全て青葉様によるものです。当日は上記にイラストが入った完全版を公開しておりました。遊んで頂いた皆様、ありがとうございました!
 

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