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Epilogue

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STORY

 雲深探偵社の看板『Unshin Detective Agency』を調べてみると、その裏にはどこかへと通じる通路があった。隣の建物と探偵社の間の隙間を利用した通路のようだったが、このような通路があることは魏無羨たちも気づいていなかったという。


「まさかの灯台下暗し……こんなところに」

 気をつけて通路を通ると、開けた場所に出た。探偵社の建物の裏側に当たる場所で、四方を周りの建物に囲まれた小さな裏庭のような場所。あまり人の手は入っていないようで、草が茫々と生えている。
 その中で、草が刈り取られた場所が一箇所。よく見れば、地面にいかにもあやしい、小さな扉が一つ。そして、その扉にはパスワード式の電子錠。
 パスワード『welcome』を打ち込むと、カチッと鍵が外される。
 扉を開ければ、そこには地下への階段があった。中は暗く、一度覗いてから近くに人の気配がないことを確認する。藍忘機が小さなペンライトで足元を照らし、全員で下に降りていくことになった。
 温寧が先行し、階段を降りていく。その先にまた扉が一つ。今度は鍵のない黒い扉だ。

 

「……候補生君、君が扉を開けてくれ。開けた瞬間、私と魏嬰が場を押さえる」
「温寧、お前は扉を開けた後の候補生君のサポートを。まかせたぞ」

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 藍忘機と魏無羨がこちらに声をかけながら、手に何かを構える。暗くて見えないが、護身用の武器だろうか。まさか、銃ではないと思うが、それも暗くてわからない。
 扉のノブに手をかけ、突入に備える。


「行くぞ、3、2、1…」

 

 響く魏無羨のカウントダウン。緊張から手に汗を握る。そして。

 

「0!」

 

 最後のカウントとともに扉を引いた瞬間、後ろからいきなり中へ押し出された。
 話が違う?!
 パニックになりかけた瞬間、目と耳に入り込んできたのはーー。

 ぱんっぱぁん!

 響く軽快な火薬の音。
 降ってくるさまざまな色のテープ。


「到着おめでとう!」

 

 たくさんの人の声。訳が分からず周りを見渡すと、こちらを見つめる人の波。ただし、それは取引現場に踏み込まれた人の反応とは大きく違い、みんな何故かにこにこと笑っている。どういうことだと思い、後ろを振り返ると……。

 ぱぁん!

「おめでとう!候補生くん!合格だ!」


 こちらに向かってクラッカーを引いた魏無羨と藍忘機の姿。
 魏無羨は心底楽しそうな笑顔を浮かべて。
 藍忘機は相変わらずの無表情だが何故か微笑んでいるように見えた。

 どういうこと?
 頭の中に大量の疑問符が浮かぶ中、二人の後ろから「いきなり押してすまなかった!」と謝りながら温寧が事情を説明してくれる。
 いわく。
 これは、最初から候補生を試すための試験だったらしい。
 謎を解き明かし、この場所にたどり着けたら、本採用決定だったのだ。
 よくよく会場を見れば、天子笑を売ってくれた聶懐桑もここにいて、扇を片手にこちらを見て嬉しそうに笑っている。
 また、彼を見つけるために街を歩き回り、訪れた場所にいた人の姿もちらほら見える。つまり、街全体で雲深探偵社の候補生を試していたということだったのだ。

 

「まったくこの町の探偵は人騒がせだな。お前も苦労するぞ」


 声をかけられ振り向くと、目つきの鋭い青年が一人。見覚えのない顔だったが、どこかで聞いた声のような気がした。
 そこに魏無羨がいきなり飛んできて、青年の肩を掴む。

 

「江澄〜!会場の準備から何までありがとうな!おかげでサプライズ大成功だ!」
「魏無羨……お前はもう少し加減というものを覚えろ!どれだけこちらが苦労したと思っている!」

 

 どうやら会場その他もろもろの準備は目の前の青年、江澄が行ったらしい。会場を見れば、壁や天井にはたくさんの飾りやバルーンが飾り付けられ、華やかだ。テーブルの上は豪華な料理でいっぱいで、ドリンクもジュースからワインまで豊富に揃っている。そこには見覚えのある酒瓶も並べられており、「天子笑はもちろん私からだよ〜」と抜け目なく聶懐桑がアピールしてきた。

 

「候補生君」


 魏無羨と江澄がまだ騒いでいる中、藍忘機がこちらへやってきた。

 

「驚かせてすまなかった。だが、私たちが選んだ候補生に間違いはなかったと確信させてもらった」

 藍忘機は真摯な目でこちらを見つめてくる。だが、その目がふっ、と緩んだ気がした。

「君の実力は確かだ。これからも期待している」

 

 最大級の賛辞だった。

 

「そうだぞ。さすがは雲深探偵社の探偵候補生!なぁ、江澄。俺たちの選んだ候補生はすごいだろう?」


 そこに、魏無羨もやってくる。後ろにはまだ怒っている江澄が腕を組んでいたが、それも一瞬。すぐにため息をついて呆れ顔になった。

 

「……お前、自慢したくて、だからこんな馬鹿騒ぎを仕組んだな?」
「当然だ!」

 

 あっけらかんと言い放つ魏無羨に、さらに江澄はため息をついた。それを尻目に魏無羨はさらに言葉を続ける。


「それに、ここにいる人たちは雲深探偵社にとって、いや俺たちにとって、無くてはならない大切な人々だ。だから、候補生を紹介したかったし、みんなにも知って欲しかったんだ!なぁ、藍湛?」
「うん」
「というわけで、候補生君改め新人君!これからよろしくな!」

 

 目の前に差し出された手。
 雲深探偵社の一員として、これからここで探偵として頑張っていく。
 気持ちを新たに、その手を強く握り返したのだった。

fin?







 料理もお酒もとても美味しかった。
 たくさんの人から声をかけられ、楽しく歓談し、これからの生活に期待を寄せていたとき……それは起きた。
 突然、会場の一部が騒がしくなった。何かがあったらしいと顔を出してみると、江澄と藍忘機が何か揉めている、ようだった。


「邪魔。魏嬰に近寄るな。減る」

 

 藍忘機が江澄に向かって、とんでもないことを言っている。だが、先ほどとは違って何か様子がおかしい。表面上は同じに見えるが、話し方が拙く、目が据わっているように見える。
 どういうことか、と助けを求めようと魏無羨を探す。だが、当の魏無羨はというと、すぐ側で大笑いしていた。

 

「誰だ、藍忘機に酒を飲ませたのは……!」

 

 江澄が怒りながらも頭を抱えていた。どうやら、藍忘機は酒を飲んだようだが……もしかして、酔っているのだろうか。

 

「忘機、嬉しそうだね。私も尽力した甲斐がある」

 

 そういって、藍忘機のカップに天子笑を注いでいるのは、先程藍忘機の兄と紹介された藍曦臣だった。

「貴方か、藍曦臣!というか貴方も飲んでいるのか?!」

 江澄が言う通り、彼の頬はほのかに赤く、見るからに上機嫌だった。どうやら兄弟揃って酒を飲んでいるのは確かなようだ。
 江澄は酔っ払い二人をどうにかしようとするが、するりとかわされて、遊ばれている。そのうちに、笑う魏無羨のところに藍忘機が戻ってきた。

 

「魏嬰」

 

 藍忘機が愛おしそうに名前を呼ぶ。

 

「なんだ、藍湛?」

 

 その呼びかけに、笑いすぎて出てしまった涙を拭きながら魏無羨が応えた。

 

「探偵が増えた。私の仕事も減る」
「うん、そうだな」
「だから、もっと一緒にいられる」

 

 藍忘機の口元が弧を描く。
 その言葉と表情に、にんまりと笑みを浮かべ魏無羨は藍忘機に抱きついた。

 

「ああ、これで俺たちもいちゃいちゃできるな、藍湛!」
「うん、いちゃいちゃしよう」

 

 抱き合いながら、笑い合う二人。そして、二人してこちらを見つめて。

 

「というわけで、よろしくな新人君!」
「よろしく頼む、新人君」

 

 二人して、極上の笑顔でそんなことを言われたら頑張らないわけにはいかない。
 とりあえず、雲深探偵社で勤めるにあたって、「藍忘機に酒は厳禁」ということは忘れずにいようと誓ったのだった。
 

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