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腕試し謎
Episode1
ようこそ雲深探偵社へ!
――ここが、雲深探偵社。
古風な意匠の扉を前に、ごくりと唾を飲み込んだ。
この探偵社に探偵候補生として勤めることになり、今日はその初出勤の日。緊張しながら扉の取っ手に手をかけると、扉は重い音を立てながらゆっくりと開いた。
探偵社の中は、案外こじんまりとしていた。入り口から進んだところには来客用の応接セットがあった。そして、そのソファの奥には、仕事用であろう大きな机が一つ。
よく見れば、ソファには寝転びながら書類を見ている青年が一人。格好を見れば、仕立てのいい服装をしているのだが少し着崩して着ている。そして、彼の短い黒髪は所々はねていた。彼の隣のテーブルには、土瓶が置かれているが……まさか、酒だろうか。
青年を見つめていると、こちらの存在に気づいたのか、書類を置き、起き上がった。
「ん?もしかして、探偵社に依頼かな?」
その言葉にふるふると首を横に振ると、青年は最初は不思議そうな顔をしたが、すぐに何かを思い出したようだ。
「そうか、探偵候補生だな。ようこそ、雲深探偵社へ!」
黒髪の青年はにこにこと両手を広げて歓迎してくれた。
青年は広げた両手でこちらの肩をぽんぽんと叩き、「いやあ、最近忙しくてさ!来てくれて助かるよ!」と親しげに接してくれた。
そんな時、突如後ろから声が聞こえた。
「魏嬰、距離が近い」
振り向けば、そこには眼鏡をかけた美丈夫がいた。服装もタイを締めてかちっとした格好の男性だった。
「藍湛、探偵候補生がきてくれたぞ。候補生君、こっちがうちの探偵社の探偵だ」
「よくきてくれた。先日送った書類は持ってきてくれただろうか」
そう言われ、持っていた採用書類を手渡すと、二人にソファの後ろにあった仕事用の机のところに手招かれた。
眼鏡をかけた男性が机の椅子に座り、採用書類を確認する。真剣な表情で書類を見つめる姿に、少し緊張する。一方、黒髪の人懐っこそうな青年はそれを机の上に座って、ニコニコしながら見守っている。
数分の静寂の後、探偵の男性が頷いた。
「うん。問題ない」
「よかった!」
探偵の男性の言葉に青年が嬉しそうに笑い、こちらへ向き直った。
「改めて、俺は魏嬰。字は無羨。ここの探偵社の助手だ!よろしくな!」
「藍湛だ。字は忘機。雲深探偵社へようこそ。歓迎する」
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人懐っこく明るい助手の魏無羨に、冷静沈着で切れ者に見える社長の藍忘機。
正反対の彼らとこれから、どんな日々が始まるのか。
ドキドキと胸が高鳴った。
改めて、ソファに座ってこれからの説明を受ける。
「いやー本当に来てくれて助かったよ。最近は嬉しい悲鳴というか、仕事が本当に多くてな……。もともとそんなに忙しく働く予定じゃなかったんだけど、気づいたらそうなっていたというか」
頭をかきながら困った顔をする魏無羨。先程も寝ながらとはいえ、仕事の書類を整理していたのだという。
「この探偵社は今まで私達二人で回してきたのだが、さすがに手が足りなくなってきた。だから、君を候補生として迎え入れることになったわけだが……まだ本採用ではない」
藍忘機の指摘にごくりと息を呑む。
そう、あくまでまだ『候補生』としての採用なのだ。今日からの出勤は試用期間であり、まだ探偵として本採用されたわけではない。
「まあ、そんなに固くならなくても大丈夫だ、候補生君。ちょっとお前の力を試させてもらうだけさ」
そして、人の悪そうな笑みを浮かべる魏無羨。力を試す、とは一体どんなことをさせられるのだろうか。
「幸い、今日は急な案件が入らない限り、大きな案件はない。候補生君の力を大いに試させてもらおうと思っている」
「うちの探偵として本格的に働くには、まずテストに合格してから、ってことだ。頑張ってくれよ、候補生君!」
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今日はなかなか試練の一日になりそうだった。
問題1
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