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腕試し謎
Episode2
まぼろしの酒、天子笑
課題を終えてやっと事務所に戻ってきた。
早く魏無羨と藍忘機に解答を、とはやる気持ちで事務所の扉に近づくと、誰かが扉の前にいる。
長い黒い髪を頭の上に結んだ、若い青年のようだ。
誰だろうと思って声をかけると、青年は驚いたように飛び上がった。
「え、あ、その……」
突然声をかけられたことに驚いたのか、青年はなかなか言葉が出てこないようだった。そして、整った優しげな顔がみるみる青ざめていく。
「すみません、間違えましたー!!」
いきなり大きな声で叫び、そのまま走り去ってしまう。
なんだったんだろうか、としばし呆然とする。しかし、課題の答えを早く届けなければ、と気を取り直し、扉に向き直った瞬間だった。
かさりと、足元で音がする。その音に足元を見下ろすと、一通の封筒が落ちていた。拾って宛名を確認すると、宛名は『雲深探偵社 藍忘機様』と書いてあった。差出人の名はない。先ほどの青年が落としたのだろうか?
宛名が探偵社の藍忘機宛になっているのであれば問題ないかと思い直し、その封筒を持ったまま扉を開けた。
***
探偵社に戻ると、魏無羨が出迎えてくれた。
「おお、はやいな。さすがは探偵候補生だ!」
魏無羨に促され、探偵社の中に入れば、藍忘機も待っていてくれた。
課題の答えを告げると、藍忘機は頷き、魏無羨はにっこりと笑ってくれた。
「しっかりと街を見て回ったようだな。次も期待している」
「さすがは探偵候補生だ!難なくクリアできたな」
魏無羨に頭をぐりぐり撫でられ、藍忘機にも褒められると、なんだか照れ臭い。
「優秀な候補生には、先輩から何かご褒美をあげないとな〜。ちょっと待ってろよ」
そう言って、魏無羨は部屋の奥に入っていった。その手には何か見覚えのある土瓶が。……まさか、ご褒美とは酒ではないよな?と思いつつ、先ほど拾った封筒のことを思い出す。
藍忘機宛だったので、彼に声をかけ、その封筒を手渡した。
「私に?誰からだろうか」
先程探偵社の前に青年がいたことを伝え、その彼が落としていったのかもしれない、と伝える。
「分かった。確認しておこう」
藍忘機が封筒を受け取り、その封を切ろうとした時だった。
「あー!俺の酒がない!」
魏無羨の悲鳴が探偵社に響いた。そして、事務所の奥から悲しそうな顔をして魏無羨が飛び出してきた。その手にはやはり見覚えのある土瓶が握られていたが、その中身は空のようだ。
「藍湛!俺の酒がない!せっかく候補生君に振る舞おうと思ったのに」
「魏嬰、落ち着いて。この前、もう少なくなっていると自分で言っていただろう。あと、候補生に就業中、酒を飲ませてはいけない」
「初日だから歓迎もかねて振る舞おうと思ってたんだよ。はぁ、俺の天子笑ぉ……」
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藍忘機に宥められながらも、悲しそうに涙ぐむ魏無羨。その姿があまりに悲しそうだったので、思わず提案してしまった。
その酒を自分が買ってこようか、と。
「え、候補生君、俺の酒を買ってきてくれるのか?」
魏無羨の顔色がぱっと、明るく変わる。
しかし、それに待ったをかけたのは、藍忘機だった。
「だが、魏嬰。あれを買うのは手間がかかる」
「それなら、それを第二の課題にすればいいのさ。なぁ、藍湛」
いいだろう?と魏無羨に見つめられ、藍忘機は軽くため息をついた。
「……彼が飲んでいた酒を知っているか?」
藍忘機の問いに、首を横に振る。
「あれは、姑蘇の名酒『天子笑』だ」
天子笑。その有名な酒の名前は聞いたことがある。古くから姑蘇の地で作られてきた酒で、大変美味だと評判の酒だ。だが、今ではなかなか手に入らないと聞く。
「天子笑を手に入れるには、ある売り手を探さなければならないのだが……仕方がない」
「さすが、藍湛!」
藍忘機がスマホを取り出し、メールを打ち始める。
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業務的な内容をさっ、と打ったのだろう。すぐに送信すれば、ほどなくして返信が返ってきたようだった。
それを覗き見ていた魏無羨が嬉しそうに笑う。
「よし。売り手と連 絡がついたぞ」
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問題2
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